『U.C.HARD GRAPH』開発秘話

 宇宙世紀の兵士やメカをより実在する兵器に近いテイストで再構成し、ミリタリースケールモデル的な切り口で展開する『U.C. HARDGRAPH』。兵士を主体としたリアリティを重視した製品開発には、今までのガンプラとは異なる技術や発想が多数盛り込まれている。今回から、そうした『U.C. HARDGRAPH』ならではの開発秘話をレポートしていこう。
 第1回は、デジタル技術を駆使したフィギュア制作現場の様子を追ってみた。

『U.C. HARDGRAPH』の主役である宇宙世紀の兵士たち。リリースされている、1/35スケールキットのフィギュアは、国内で活躍する原型師の手によって制作されたものを使用しているが、現在さらにリアリティのあるフィギュアの造型に向けて、最新のデジタル技術を融合する研究に取り組んでいる。
 そこで、どのような技術を用いてフィギュアを進化させようとしているのか、その現場の様子を取材した。

 この日、『U.C. HARDGRAPH』のスタッフが集まったのは東京・品川にある「ゼネラルアサヒ GA DIGITAL GRAPHICS 品川スタジオ」。
 ここには、商用としての使用では日本にただひとつの、人間の全身を立体のデジタルデータ化して取り込むことが可能な立体スキャナがある。
 ゼネラルアサヒ社は、かつてガンダムとしては初のフルCGによるシリーズ『機動戦士ガンダム MS IGLOO』の制作の際にもキャラクターモデリングにあたっても協力しているという実績を持つ、コンピュータグラフィックに関する高い技術を持つ企業なのだ。
 そこで、かつて『MS IGLOO』の制作に参加していたゼネラルアサヒ社の技術とスタッフにも再び協力を求め、立体スキャナを使用した、フィギュア用の人体スキャニングが行われたのだ。
  もともと『U.C. HARDGRAPH』の企画自体が、サンライズの元『MS IGLOO』開発スタッフとバンダイホビー事業部による共同開発プロジェクトであり、模型制作にもフルCG映像制作で培った最新のデジタル技術を取り入れるトライアルを行うことも1つの目的となっている。
 そのため、今回の人体スキャニングに関しても、「リアルなポーズ」と「リアルなプロポーション」をより効率的に、実在の人物から立体データを取得。それをもとに『U.C. HARDGRAPH』用のフィギュアを制作するという最新デジタル技術導入を優先した手法が考えられたのだ。
 こうして、スキャニング現場は、外部スタッフも含めた『MS IGLOO』制作チームが再集結した形でデータ収録が行われた。かつて、共にCG制作を行った“仲間”でもゼネラルアサヒ社のスタッフとの息はピッタリ。気心が知れいているからこそ、作業自体はスムーズに進行し、緊張感の中にも終始和やかな雰囲気の現場となった。

 では、実際にスキャナを使用した、全身スキャンの手順を見てみよう。
 使用するスキャナは、サイバーウェア社のWHOLE BODY SCANNER。中央の台に立たせられるものであれば、人物に限らず、着ぐるみや衣装、オブジェなどでもスキャニングして、データとして取り込むことができる。このスキャナは、台の中央に置いた物体をレーザーの反射で読み取って立体データを作成するため、モデルの人物がまとっている衣装のシワやモールドまでも忠実に再現可能。もちろん、その際にモデルの人物がとっていたポーズまでも取り込まれるのだ。
 そこで今回は、設定の体型に極めて似たモデルの方が実際のミリタリーウェアを着用してスキャニングすることとなった。実在の軍服着用でスキャンするので、もちろん、設定とは形状が異なるが、しわの表現などの参考に、設定にもっとも近い軍服を用意するため、ミリタリーショップ「サムズミリタリ屋」に資料協力として、他の軍装ともども用意して頂いている。

 複数体のフィギュアを制作するにあたって、そのうちの1体のモデルを務めたのは、ガンプラファンにはお馴染みのバンダイホビー事業部の川口克己氏。川口氏は軍服を着用し、右手にはカップを持ったくつろぎのスタイルとなった。
 川口氏がまとった軍服を見て貰うと判るが、カップとブーツにテープが貼ってあるのが見える。これは、立体スキャナが光沢のある素材のスキャンを得意としておらず、データとして取り込まれ難いため、それを補うための処置。コップやブーツにテープを貼ることでそれがガイドとなり、うまく形状がスキャンされずとも、大きさや形状はデータとして残るので、それをもとに立体のデータを修正するのだ。

 こうした準備を終えたら、次は実際のスキャニング作業に入る。
 まず、スキャナの中央の台にモデルが立つ。そして、フィギュアと同じポーズをとる。ポージングに関しても、イメージに合わせて“演技”をしてもらう必要があるので、ディレクターの今西隆志氏がチェック。腕や足の角度からフィギュア同士の組み合わせまでも想定した視線まで、スキャニング直前に指示を行う。

 そして、いよいよスキャニングがスタート……とは言っても、大がかりなことは特になく、レーザーを照射し、その反射を読み取るセンサーが上から下に移動。その時間はわずか15秒足らずで、スキャニング作業が終了する。
 センサーが読み取った情報は、即時に立体データ化されモニターに映し出される。これが、フィギュアのベースとなるデジタルデータとなるのだ。

 モデルの写真と完成データの画像を見比べてもらえば、その精度の高さが判るだろう。服のディテールやモデルの体型はもちろん、微妙な表情までも見事に立体データ化されている。

 こうして取り込んだ立体データは、サンライズのDIDスタジオにて修正が行われデジタルデータとして完成を見る。
 そのデータは、ガンプラの開発を行っている静岡のバンダイホビーセンターにて、光造型機エデンを使用して1/35サイズの形状試作モデルが出力される。
 しかし、これがそのままフィギュアとなるわけではない。さらにこの試作が、フィギュア造型師のもとにわたり、設定に合わせた頭部や軍装の改修や、1/35サイズでより立体映えする形に修正が加えられるのだ。
 このように『U.C. HARDGRAPH』では、最新のデジタル技術と造形家の職人芸が融合することで、より再現度の高いフィギュアを目指している。
 もちろん、1/35サイズで再現される状況をより明確にするために周到な準備が行われている。モデルがフィギュアのポージングに迷わないための完成後の状況を想定したイメージボードの制作、さらにスキャニングの際に実際には存在しないフィギュアと連動する装備や車両を再現するためのデータ(イスやハンドルの位置を特定するための数値など)も事前に用意されており、スキャニング作業自体は数時間で終了しているが、その前段段階で周到な準備がなされている。
 こうした作業によってデジタルデータをもとに立体化されたフィギュアは、どんな作業を経て完成形に至るのか?
 次回は、本シリーズのフィギュアの原型を担当している鬼丸智光氏に、フィギュア造型について話を伺う予定だ。

ゼネラルアサヒ GA DIGITAL GRAPHICS 品川スタジオ
日本初!「CyberWare WB4」完備の3次元スキャニングスタジオ
http://studio.ga-cg.com/

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