インタビュー[『U.C.HARD GRAPH』の誕生と展望]

『U.C.HARD GRAPH』のプロデューサーである井上幸一氏と、立体開発を担当している江上嘉隆氏(バンダイ・ホビー事業部)に、企画の発端からシリーズの特徴、そしてこれからの展望について語って頂いた。

——なぜ1:35という、それまでのガンプラとは隔絶した企画が発生したのですか?

バンダイホビー 江上嘉隆氏

江上「MGの発売開始から10年、HGUCも5年を経過しました。『そろそろ新しい提案を!』という検討を重ねる中で、ホビー事業部伝統の「実物(の模型)をつくる」という手法で、モビルスーツとは別の素材(人物)を料理してみたら何ができるだろう?というので生まれたのが、この『U.C.HARD GRAPH』です。スケールについては、1:48だと表情を出すのに小さすぎるし、1:24以上だと周辺アイテム―ワッパなどのメカ―が大きくなりすぎる。そうした中で最も適しているのが1:35と判断しました。」

——最近のガンプラと違い『U.C.HARD GRAPH』は接着剤を必要とするなど、ユーザーが手を入れなくてはならない部分が多いのはなぜですか?

江上「ガンプラはリアルでカッコイイものが誰にでも組み立てられるように進化し、お客様の裾野は大きく広がりました。しかしその反面、作り手個々の“カラー”が出し難くなったこともまた事実です。多様化が続くガンダム商品群の中で、今後ガンプラが際立つためには、玩具系とは異なる模型が本来から持っている特性…作りこむ楽しみを再発見してもらいたいというコンセプトが企画の原点でもあるんです。1:35だと、『ここは錆びやすい』とか『キットで省略されているココの構造を再現してやろう』など、バイクや自動車など身近なモノの有り様からキットをいじる方向がイメージしやすくなります。そういう実物にディティール感を損なわないようにすると、どうしても細かいパーツになってしまう。このシリーズではこのスケール感の演出を第一優先とするため、接着剤などのうまく作るにはある程度練習が必要な要素も取り込みました。

——『U.C.HARD GRAPH』には「ディレクター」という、映像作品ならともかく模型作品には馴染みのない役職が存在していますが、これはなぜですか?

プロデューサー 井上幸一氏

井上「今回のプロジェクトでは、フィギュアやメカをただ単独で作れば良いのではなく、それらを取り巻く世界観の構築も必要となってしまいます。だから設定画を描くクリエイターだけでなく、一つのシーンとして構成、演出するディレクターが欠かせない。そこで『MS IGLOO』の今西監督にこの話を持っていったんです。もともと彼の管理するD.I.D.スタジオはホビー事業部さんとの付き合いも長いから、意志疎通も慣れていますし最適だったんですよ。ある意味では仕事の過程も似ていると思っています。出来上がる物がデータなのか実体を持つプラモなのかという違いでしかない。実際、立体物の設計などがコンピュータで行われるようになってからは、イメージの共有や意志の疎通がやり易くなりましたよ。まあ昔からバンダイさんとは「一緒に物作りをしていきたいね」っていう希望がありましたけど、やっと現実化したというところですかね。

——周辺の反応についてお聞かせ下さい。

江上「良い手ごたえを感じます。今回のプロジェクトは単なるミリタリー感では終わらせず、写実的に行くというコンセプトが導入されています。もとの設定画が似顔絵としたら、実物は誰?という感じで、古今の俳優やモデルなどをベースに設定画が描き起こされています。第2弾のラル大尉なんか凄く渋いですよ。画稿を見た静岡の人間が「ダンディですね!」って言っていたらしいです(笑)。アニメキャラの渋さとは異なる、本物の人間が醸し出すダンディズムを感じているんですよ。もっとも、具体的な立体化を担当する設計担当や原型師には大変な苦労がかかっていますが…。」

井上「うち(サンライズ)でもね、会社の偉い人たちが興味を示しています。デスクトップに飾るモデルには最適なの。普通の会社で仕事机の上に置いておいても恥ずかしくないから(笑)」

——『U.C.HARD GRAPH』への期待感などをお聞かせ下さい。

井上「ちょうどこの前ヅダが出たでしょう? あのメインノズル内部の彫刻が凄いってネットで話題になったでしょう。例のレーザー彫りの部分ね。いままでのキットにはなかったあの精密技術を用いてフィギュアが作られるわけで、非常に楽しみです」

江上「実は金型が精密だったら良いというわけではなく、プラをキッチリ隅々まで流す成形技術や、細いことによる輸送時の部品の破損や変形など、デメリットが生じる可能性も高くなるんです。トータルとしての技術やシステムの開発が重要ですね。」

井上「模型としては隠しネタ、特徴みたいなモノってあるんですか?」

江上「特徴ですか?一番はフィギュアのイロプラ化ですが…。う〜ん。あとは、やっぱり従来のガンプラらしくない“細さ”ですかね(笑)。限界まで挑戦してます。」

井上「挑戦という意味では、今回はマスプロ製品では再現が困難なだろうというレベルまで設定を作っています。模型誌や製品の組み立て説明書に掲載される情報などは、ある意味では、モデラーさんへのメッセージですね。それらを参考に、いじって見て欲しいんですよ。」

江上「確かにリアルな実写路線であっても、キャラクターとしての基本の記号は変えていないので、フィギュアごとの特徴とか体格差、いわば個性を出していきたいと思います」

井上「一般のミリタリーフィギュアと比べたら、元がアニメのこのシリーズは全体的にスタイリッシュですよね。だからランバ・ラルの場合は色おじさん?というかダンディになっちゃうですよ(笑)
この先シリーズが進めば、二枚目以外にも太った三枚目や個性的な脇役といったバリエーションが想定されています。リアルなデコボコ感が見えやすいんです。
最初のガンプラブームのときに発売された1:20サイズのフィギュアと比べると、物凄い違和感を感じるかもしれませんね。それでも『U.C.HARD GRAPH』のフィギュアは格好良く見えると思います。」

——企画からここまで一年掛かった甲斐があったと?

井上「そうですね。開発にここまで時間をかけているから、自信ありで押せますよね」

江上「企画も二転三転しましたからねぇ。アレやりましょうとか、やめましょうとか(笑)」

井上「今回は基本セットことで地上部隊だけど、パイロットだってやりたいよね」

江上「そうですね。潜水艦のクルーも良いかもしれない」

井上「地味ですね(笑)。発令所でミーティングしているディオラマとかは魅力ですね。ストーリーを組み立てられるくらいにバリエションが揃ってくれると嬉しいなぁ」

江上「小物とか大道具とか作るの大変ですよ(笑)」

井上「(ワッパみたいに)おまけが大きくなってしまう(笑)」

江上「あくまでフュギュアが主人公ですから。後は映像になると良いですね。やっぱり究極的には『U.C.HARD GRAPH』の映像との連動ですね。」

——本日はありがとうございました。

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