バンダーホビーセンター探訪記 第2回

 バンダイホビーセンター(新・静岡工場)の概要をレポートした前回に続き、今回はガンプラを生み出すために開発された技術などを紹介する。
 もはや言うまでもないことだが、日本は世界で屈指のキャラクター大国である。この分野ではアメリカというおよそ半世紀先行している先輩がいるが、日本は独自の世界観を打ち出すことで彼らに比肩あるいは凌駕するキャラクターを発信してきた。
 そもそも日本は第二次世界大戦前から良質の玩具輸出国として世界的に名が知られており、太平洋戦争での敗北後の占領時代、GHQ(General HeadQuarters:占領軍最高司令部)の肝いりで真っ先に玩具の生産と輸出が行われたほどの歴史を持っている。こうした素地と歴史を持つ日本でプラスティックモデル……プラモデルがひとつの文化として根付いたのは、ある意味必然だとも言えよう。
 昭和30年代前半、輸入プラモデルのコピーから始まった日本製プラモデルは、いまや世界最高峰のレベルを誇るまでに至った。その中で、他国では真似できない日本独自の製品、それが「ガンプラ」である。昭和55年、最初の1/144ガンダム発売以来およそ四半世紀、バンダイホビー事業部が休むことなくリリースを続けているガンプラこそ、プラモデル業界、否、日本が誇るべき模型技術の集大成であり最先端なのだ!
 では、バンダイホビーセンターに秘められた、驚異の技術の数々をお見せしよう!!

 まずは「光造形室」に設置されている「EDEN」について解説しよう。これは三次元で設計されたCADデータをもとに、特殊な樹脂をレーザーで硬化させて立体造形を行うシステムで、非常に早い速度で作業が行われる。写真1ではわかり辛いかもしれないが、それぞれのパーツには設計データどおりの細かなディティールが再現されている。原型のない、データからの直接造形とは思えない出来だ。

▲これが「EDEN」で作られたパーツ。


 ちなみに写真2が「EDEN」なのだが、一見するとOA機器に見えるだろう。造形機械という言葉から受ける、ある種のイメージからかけ離れた姿だ。機能的に洗練された機械は美しくなると言われているが、これはまさにその証左といえる。

▲この大きな黒い「箱」が「EDEN」。
あの中でレーザー彫刻が行われる。

 次に金型について説明しよう。
 金型は彫刻の達人によって彫られる……のではない。CADデータから原型を切削するための加工データを作る。これでNCと呼ばれる自動工作機械を動かし、銅の塊から部品の原型を削りだす(写真3)。次にこの原型(凸型:放電マスターという)を電極にして高電圧をかけながら金型の材料に押し付けスパークさせる。その熱によって金型の材料が溶け、ゆっくり、しかし確実に形が写し取られていくのだ。

 
▲マシニングセンターと呼ばれる機械の中でこれら放電マスターが作られていく。


 こうして出来上がった凹型を組み合わせることで「金型」が完成する(写真4)。金型の出来がプラモの質を左右するのは昔から変わらず、それゆえにメーカーは良質な金型を作るために血道を上げている。

▲部品型(コマ)を集めてひとつにしたものが「金型」。


  ちなみに『U.C.HARD GRAPH』では、細かいディティールの再現にレーザー彫刻が用いられる(写真5)。これはその名の通り放電やドリルなどではなく、レーザー光線で削り出しを行う最先端の技術だ。どれほど小さく細かい彫刻が行えるかは、先頃発売されたMG『モビルスーツ・ギャン』に付属している1:100のマ・クベのフィギュアを見て欲しい。驚くこと間違いなしである。少なくとも我々は驚いたゾ。

▲レーザー彫刻機、その名も「Lasertec 40」!
操作パネルを見ているのがプロデューサーの井上幸一氏。
彼が操作しているわけではありません、あしからず。

 さて、現在、ガンプラと言えば「イロプラ」を意味する。釈迦に説法とは思うが、ここでイロプラについて些少の講釈を。
 お若い方たちの中には、かつてガンプラもスケールモデルなどと同じく、自分で塗装しなくてはならなかったという事実をご存じない方もいるだろう。現在も『FG』シリーズで単色成形のモデルがリリースされているが、昔はすべてのガンプラがあのように「色なし」だったのだ(写真6)。ゆえに組み立てた後、手間暇かけて塗装して、そこでやっと「完成」になるのだ。この塗装がまた一苦労で、塗料を揃えるための出費もバカにならなかったし、失敗は許されなかった。

▲イロプラ以前のガンダム。まさに「白いヤツ」である。


 しかし現在、多色成形の技術が進んだため、ガンプラは単に組み立てただけでも、いや、下手に塗装するよりは格好良く作れるようになった。これは驚くべきことである。
 多色成型機(写真7)の性能については前回詳述したので省くが、かつてのガンプラに思いを馳せるとき、多色成形という技術の恩恵がどれほどのものか理解できるはずだ。多色成形に栄光あれ!! ジーク多色成形!!

▲ガンプラ好きにとってはまさに「神」も同然である。


 さて、バンダイホビー事業部の恐るべきところは、この技術をスタンダードなものにしてしまったということにある。言うなればこれは旧ザクの開発やサイコミュの実用化にも匹敵するエポックメイキングなもので、プラモのノーベル賞があれば受賞間違いなしだろう。
 多色成型機によって出来上がったパーツは、お馴染みザク型自律式フォークリフト(写真8)によってヤードに運ばれていくのだ。

▲赤くて角が付いているからって、3倍作業速度が速いわけではない。

 このような過程を経て『U.C.HARD GRAPH』などのガンプラは生み出されていく。たかがプラモと言うなかれ。そこには良質なプラモをユーザーに届けようとする開発者たちの熱意が渦巻いているのだ。
 いや、それにしてもマジですげぇよコレ。ハンパじゃないよ。ってなワケで、バンダイホビーセンター驚異のシステムを知ったスタッフ一同は『U.C.HARD GRAPH』のキットが手元に届くことを首を長くして待ち望むのでありました。あ〜早く作りたい!

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