ハードグラファーへの道 第5回

文:石井誠

 前回から始まった「フィギュアを組み立てて色を塗ろう!」企画の第2回目。いよいよ塗装編突入です。
 今回も、ライターの石井が、サンライズWEB担当の木内に教える形で進行します。

 今回は、“人形は顔が命”という言葉もあるとおり、フィギュアを塗るのに重要な顔=肌色の塗装を重点的に押さえて行きましょう。
 1/35スケールのフィギュアは、見てのとおりかなり小さいです。そのため、単色で塗るだけではノッペリとした印象になってしまうので、凹凸を強調するという塗装表現が重要になってきます。
 ということで、今回は肌色の部分だけの塗装をクローズアップしてお届け。作業日前日、木内から「今回は、塗料は何を使うんですか?」との連絡が入りました。準備作業の際に、「プラモデル用の塗料では塗らない」と話していたので、今回、塗装するにあたってアクリル絵の具を選びました。
 ラッカーやエナメルといった模型用の塗料を使用してもフィギュアを塗ることは可能ですが、発色の良さや水性塗料であるという取り扱いと入手の容易さという点からもアクリル絵の具がフィギュア塗装にはベストマッチ。セットで購入するとやや値が張りますが、初心者にも扱いやすいので、最初は基本色のセットと足りないものを数色買い足してチャレンジしてみるといいでしょう。(アクリル絵の具は、画材店で手に入れることができます)
 もちろん、木内のアクリル絵の具での塗装は初めて。ラッカー塗料を使った塗装とはかなり手順が違うので、戸惑い気味に作業は始まりました。

 さて、その他に塗装を行うのに用意すべきものを紹介していきましょう。

  • ベンジン
  • 綿棒
  • ペンチングソルベント(アクリル絵の具用の薄め液)
  • ペーパーパレット
  • 面相筆
  • 筆洗い(紙コップなどでも可。水を入れて使用)

 筆はあまり値段が安いと細かい作業がしにくいので、出来るだけいいものを用意しましょう。また、ペーパーパレットは調色がしやすいのと、アクリル絵の具は乾くとプラスチックのパレットでは色が落とせなくなるので便利です。
 
 まず、塗装に入る前にベンジンを使って下準備をしておきます。ベンジンとは、洋服のシミを落としたりする薬品で、薬局などで購入可能。ベンジンは、油分を取り除くのに便利なので、下地処理したフィギュアをベンジンで拭いておきます。作業の際は綿棒を使用すると便利です。
この作業は手から着いた皮脂などを除去する事で、皮脂などにより塗料がはじかれることを防ぐ為です。
今回使用するアクリル絵の具は、ちょっとした油分でも塗料が弾かれやすいので、失敗を避けるためにもこの作業をやっておくといいでしょう。

 塗装の際は台座に固定して、塗装中にもフィギュア自体を触らないように。不用意にフィギュアを触ってしまうと、また皮脂がついてしまったり、せっかくの塗装が汚くなってしまうし、フィギュア自体を落としたりする失敗もありえます。台座に固定せず作業した木内は何度もフィギュアを落とし、接着部分が外れるというアクシデントに泣かされていました。
失敗しない為にも固定するといいでしょう。

 ベンジンでの油分のふき取りが終わったら、いよいよ塗装の開始……と言うときに「いきなりですが、まずは何から始めたらいいんでしょうか?」という木内の質問が……。この疑問から判るとおり、アクリル絵の具を使ったフィギュアの塗装は、いわゆるプラモデルの塗装とはちょっと手順が違います。
 基本となる肌色の陰となる部分の色を作ります。ペーパーパレットの上に絵の具を出して、混色します。イメージとしては濃い目の茶色。ベンチングソルベントを塗料皿などにとって、アクリル絵の具に混ぜて塗りやすい粘度に調整します。

アクリル絵の具は伸びがいいので、筆に付けて線が描ける程度の濃さがいいでしょう。それを、顔の皺、目や鼻、顎の下、首などの陰になりやすいところに塗っていきます。
 アクリル絵の具は、一度乾いてしまうと重ね塗りがしやすく、下の色が溶け出しにくいので多少のはみ出しは気にせずに塗ってください。ただし、全体を茶色で塗ってしまうと塗装のガイドとなるディテールがつぶれてしまいがちなので、少しだけ注意しつつ塗ります。

 ちなみに、木内はこの段階でいきなり塗りすぎという失敗をしてしまいます。見よう見まねで、塗料の色や濃さを調整して、チャレンジしつつもやはり加減が判らず。もちろん、リカバーできますが、あまり大胆に塗りすぎないようにしましょう。

『まずやってみよう!これが僕のもっとう!(木内)』

失敗例

 次は、陰の部分と基本となる肌色の中間色を塗ります。さっき作った茶色にちかい肌色をより明るくしたイメージと思ってください。それを陰の部分を少しだけ残しながら重ね塗りをしていきます。また、境界の部分をベンチングソルベントで溶かすことでグラデーション処理させるというテクニックも有効です。
 ちなみに塗料は、放っておくと乾いてしまうので乾く前にベンチングソルベントを足すことで乾燥を防ぐようにしましょう。

そして、次はさらに明るい肌色で残った部分を塗装していきます。写真をみると、この段階でちょっと褐色な雰囲気ながら、顔に陰影がついているのが判ると思います。そして、作例ではこの段階で目を入れています。本来は、最初に目を塗っておくと手直しがしやすいので、作業手順的には先に行うのをオススメしたいのですが、フィギュアのディテールが見えにくかったので、ある程度色を重ねて、ディテールの形状が確認できるようになってから目を入れています。と、この段階で「目はやっぱり描いた方がいいんですかね?」とこれまた、目の塗装が初めての木内らしい質問が……。

 目に関しては、無理に瞳を入れる必要はないです。自信がなければ、陰になる色で誤魔化していいかもしれません。ただ、瞳を描き込むと精度が高まるので、慣れてきたらチャレンジしてみてください。目を描くときに注意するのは、瞳の位置。左右で瞳の位置がズレてしまうことも多いので、ガイドとして唇の端の延長線上に瞳を描くようにすると失敗しにくいです。
 とにかく最も細かい箇所なので、“うまく塗る”というよりも、“うまく誤魔化すように塗る”ことを心がけるといいかもしれないです。

『白目だとゾンビみたいで…。(木内)』

 ここからは、より顔の陰影を強調する作業に入ります。基本的な肌色よりも明度が高い色を作り、ほお骨、鼻、眉といった凸部に乗せていきます。光が当たっている箇所を強調するイメージで下地の色を塗りつぶさないようにエッジに乗せていくイメージで塗りましょう。
 そして、今度はほとんど白に近い肌色で、さらにフチの部分だけ色を乗せます。色の境目が気になるようだったら、再度ベンチングソルベントで境界の部分の色を溶かしてぼかすといいでしょう。
 こうして、5段階くらいに色を塗り重ねると、かなり雰囲気が良くなるはずです。もちろん、作業は顔以外に、肌色が露出している部分(手など)を一緒に塗っておきましょう。

 ここで、木内から質問。「入り組んだ部分は色が塗りにくいんですけど……」とのこと。
 これに関しては、陰の部分は最初の茶色に近い肌色で塗っておくことで対処します。塗りにくい箇所=陰なので、その後に明るい色を筆の届く範囲で塗り重ねておけば、完成した際にはそんなに目立たないはずです。フィギュアは固定されていて、手足が可動するわけではないので、見える部分だけぬっておけばいいわけです。

『割と勢いでやっちゃったけど、それなりに…なってないかな…(木内)』

 というわけで、今回は肌色の塗装編は終了。ちなみに、フィギュア塗装初挑戦の木内は、1度目の塗装は完全に失敗しています。何事も、1回目からうまくいくはずはないので、複数体あるフィギュアの中から、練習用に1体組み立てて、失敗覚悟で塗ってみるといいかもしれません。
 濃い色から、明るい色への塗り重ねの色調整、色の境界をぼかすテクニックなどは、実際に手を動かしてみなければ微妙な案配が判らないものです。
 というわけで、次回は服装&アクセサリー類の塗装を紹介します。

参考資料:深遠なる甲冑模型の世界/松岡寿一著(大日本絵画:刊)

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