ハードグラファーへの道 第14回

 「大きめのジオラマを作ろう」第5回目は、前回から引き続いてメカ関係の仕上げ編とフィニッシュ目前までお届け。長らく連載してきたジオラマ制作編もいよいよクライマックスです!

 まずは、前回の続きであるメカの汚し塗装の後編。前回では、基本塗装を行い、さらにウォッシングをすることで、汚し塗装のベースを完成させました。今回は、ちょっと変わったアイテムやマテリアルを使って、さらに汚していきます。

木内「“汚していきます”って言い方、なんか面白いですよね。普通なら、汚れるのって嫌なはずなのに、“あえて汚す”って言葉使いがミリタリーモデルを作ってるって感じがします」
石井「ミリタリーモデルは、どんどん汚しを加えていって、“使われている感”が増してくると嬉しくなるんだよね。ある意味、製作中に味わえる醍醐味の中でも、一番楽しい作業かも」

 

 ということで、作業自体は「ここはこんな風に使うから、こう汚れるはず!」という想像力を働かせながら、時には資料をじっくりと見て、汚しの作業を続けるといいでしょう。
 ウォッシングを終えたキットに、次に行う作業はドライブラシによるエッジの強調。基本塗装よりも明るい色で、パーツの凸部に色を乗せることで、より立体感があるように見せるテクニックです。
 使う色は、イメージしているものよりもちょっと明るめにしないと、基本塗装部分とのコントラストが出来にくいので注意。一度調色したものを、目立たない部分で試したりして調整することをオススメします。
 今回は、基本塗装と同じく水性アクリルカラーを使用。ラッカーをベースにカラーに使ってるなら、同じラッカーや、アクリル、エナメルと好みのものを使ってもOK。
 調色が終わったら、筆にカラーをとって、ティッシュや布でかなり色をふき取ります。筆はエッジ部分に色を擦りつける感じで動かすといいでしょう。ただし、気を付けないと細かいパーツを壊してしまうこともあるので、力の入れすぎに注意。
 写真のようにエッジ部分が強調されれば作業は終了。

木内「筆は、毛先の短いドライブラシ用を使うのがいいんですか?」
石井「使いやすさは個人によって違うので、好み応じた物を使うといいかも。僕の場合はちょっとコシのある平筆をそのまま使っています」

 次は、チッピングという作業に入ります。

木内「チッピングって、あんまり聞き慣れない言葉ですけど、具体的には何をするんすか?」
石井「チッピングは、傷を描き込む作業のこと。本物の機械は、使っているとどんどん傷がついていくけど、その傷を描くことで表現しちゃおうってわけ」

 チッピングには、エナメル塗料を使います。これは、やりすぎてしまっても、ふき取ってリカバリーがしやすいため。ただし、ドライブラシをエナメル塗料でやってしまうと、一緒に色を落としてしまうこともあるので、ここも注意しましょう。
 チッピングは、極細の筆で傷がつきそうな場所に直接傷を描き込むという方法が一般的。ただし、かなり根気がいる作業となってしまいます。そこで、今回はスポンジを使ってチッピングを行います。

 スポンジをちぎった小片に、傷色のエナメル塗料(今回は、ダークグレー、そしてグレーを混ぜたシルバーを使用)を少し付けます。スタンプを押すように傷の付きそうな場所に押しつけていくと……細かい傷が再現されるというわけです。スポンジには塗料が付きすぎないようにしましょう。また、スポンジでは表現しきれない、擦り傷は筆で直接描いていきます。

木内「スポンジを使ったやりかたは、簡単だけど効果的ですね。ところで、傷を付ける場所で気を付けるところはあるんですか?」
石井「やっぱり、物がよくぶつかったりする角や人が足を載せるところ、ワッパだとインテーク部分は、空気と共に細かいゴミも集まってくるから、傷が付きやすそうだよね。そうした、“この機械は、こう動くから、ここに傷がつきそう”という想像を膨らませるのも大事かも」

 

 チッピングが加わり、より使い込み具合がアップしたところで、さらなる効果を狙って、今度は砂や泥による汚れを加えていきます。これらの汚れに向いているのが、パステルを粉にしたものや、ピグメントと呼ばれる粉状のマテリアルです。
 今回は、ミリタリーモデラーに愛用者が多い、MIG社のピグメントを使ってみました(海外製ですが、ミリタリーモデルを中心に扱っている模型店で、簡単に入手できます)。

 ピグメント2種を塗料皿にとって、混ぜることで好みの土埃の色を作ります。そして、それを筆にとって、埃の溜まりやすい奥まった箇所や地面と接する部分(バイクのタイヤやワッパのスタンド、さらに足を載せるステップ部分)、そして、インテークなどに擦りつけます。すると、実際に砂埃がついたような質感になります。泥汚れなどは、アクリル塗料の溶剤と混ぜてペースト状にすることで再現できるので、状況に応じて試してみましょう。

 
 

木内「このパステルやピグメントを使った汚しは、前に作った小さいジオラマの時も感動したんですが、リアル感が高まって効果的ですよね」

 砂埃の色調は、ベースとも共通になるので、ピグメントやパステルをまぜたものは、ちょっと多めに作っておいて地面にも使いましょう。

 ということで、これでメカの塗装も一通り終了。さて、いよいよジオラマも完成に向けて今まで作ってきた物を配置していきます。
 メカ、フィギュアに加えて状況を演出するのに必要な小物も塗装しておきましょう。仕上げは、メカと同じように汚しを加えておくことも忘れずに。

石井「ところで、木内くんの進行状況はどうなってるの?」
木内「一通り終わったんですが、いくつか気になるところがあって、ちょっと手を加えはじめたところですよ」

 木内制作のジオラマ見てみると、ベースに新たなエポキシパテが盛りつけられています。

木内「あんまり、配置のことを考えないで地面を作っていたんですが、いざ置いてみるとサウロペルタもフィギュアも全然安定しなくて……。ちゃんとベースと載せるものの位置を考えて、パテを盛って修正しました。やっぱり、途中で調整することも大事ですね」

 さらに、よく見ると新しいフィギュアが追加されていました。

木内「せっかくバイクを作ったのに、人が乗っていないのはやっぱり味気ないので、石井さんのアンディを見習って、ガルシアを改造してバイクに載せることにしました……。ただ、ポージングが思いの他大改造になっちゃって。今回はここまでしか完成させられませんでしたよ。やはり改造は僕には早かったかも…。」

 いろいろ作業を重ねることで、やりたいこと、やれることが見えてくるのもまた事実。こうした切磋琢磨がいいジオラマを完成させる要素のひとつとも言えるでしょう。

 ということで、石井と木内のジオラマは現在ここまで辿り着きました。これで、ほぼ完成形が見えたと言えるでしょう。これにさらなる手を加えて、10月18日〜19日に幕張メッセで開催される全日本模型ホビーショーのバンダイブース、『U.C.HARDGRAPH』コーナーに完成品が展示されます。
完成形は、実際に会場に足を運んで、その眼で確かめてください。
木内「まーじーでー。ちょっと心配になってきましたよ。こんなおおごとになるなんて思ってなかった…。」

 

 

 約半年に渡って連載してきたハードグラファーへの道『大きなジオラマを作ろう編』は、ホビーショーレポートを持って完結します。次なる企画は、果たして何が待っているのでしょうか……。

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