ハードグラファーへの道 第13回

 「大きめのジオラマを作ろう」シリーズもついに第4回目。石井と木内が製作中のジオラマもベース部分が完成し、そろそろ仕上がりも見えてきた今回は、ジオラマのメインとなるメカの塗装編に突入!

 ジオラマの主人公は、シーンのドラマを生み出す兵士のフィギュアですが、戦場の雰囲気を盛り上げる大きな役割を果たすのは、やはりメカでしょう。メカ制作は、ある意味メインディッシュ的なポジションでもあるわけで、その完成度がジオラマ全体の雰囲気を左右すると言っても過言ではありません。なので、当然ながら制作には力が入ってしまいます。とは言え、メカの制作や塗装は模型作りにおいても楽しいポイントであるのも事実なので、楽しみながらやっていきましょう。
 今回は、ちょっとだけ改造していますが、基本的には塗装法がメインです。塗装は、人それぞれやり方があると思いますが、今回はあくまでジオラマ展示を第一に考えて仕上げていきます。

 まず、手順としてメカの組み立てを簡単に解説していきます。今までの連載の流れを見てきた方はご存知と思いますが、今回は第10回で紹介したディテールアップ済みのワッパとバイクを使用します。

 
 

 ワッパは操縦桿とアンテナの基部に極細のリード線を這わせて精密感を高めていました。シートベルトもベルト部分に板鉛(釣りの重りに使うもの)を切って使用し、自動車モデル用のシートベルパーツからバックルなどを持ってきて取り付けてみました。また、ホバーのフード部分は、使い込んだ雰囲気を盛り上げる似に凹んだディテールを追加(裏側から蚊取り線香の火を近づけてプラを柔らかくして、凹ませることでぶつけた後のような感じにしています)。後方のフードのメッシュ部分にはエッチングパーツを張ってみました。
 バイクはブレーキやクラッチ、などのハンドル周りの配線を同じくリード線で施してあります。

 

木内「バイクはノーマル状態でもいいかな、と思っていたんですが、やっぱりパイピングするとグッと精密感が増していいですよね。ところで、メカの塗装なんですが、パーツを全部組み立ててから塗装すると、塗りにくくないですか?ガンプラを塗装する時は塗装後に部品を組み立てていく形が多いんですけど」

 確かに塗りにくい場所はありますが、塗りにくい=見えにくい箇所なので、よほど目立つところでなければそんなに神経質にならなくてもいいかと。例えば、裏面はジオラマに固定してしまえば見えなくなってしまうので、適当に仕上がっていれば大丈夫。なので、ワッパに関してはローターのフードと内部以外は全て組み立ててから塗装しています。バイクに至っては、全部組み立ててしまってます。

木内「ちなみに僕は、塗り残しとか気になるので、組み立てながら色を塗っています。ガンプラの行程にならってますけど、作業行程も好みによって人それぞれってことですね」

 ということで、組み立てが終わったら塗装に入ります……が、リード線などの金属部分には塗装が乗りにくいので、「メタルプライマー」を筆で塗っておくといいでしょう。

 塗装は、水性ホビーカラーとタミヤのアクリルカラーを使用しています。アクリル系塗料は塗膜が弱いですが、今回のようなディスプレイモデルであれば、動かして塗料が剥がれることもないし、臭いなども気にならないのでオススメ。もちろん、塗装はエアブラシを使用しています。

木内「表面積の広い物はさすがに筆塗りだと面倒ですよね。グラデーションも楽にかけられますし」

 まずは、基本塗装には入ります。先日発表された『MSイグルー2 重力戦線』の劇中に登場するワッパやバイクのCGが発表されたので、それらのイメージを参考に塗装していきます。CGをよく見ると、陰影や汚れが映えているのが判るので、今回は、影や汚れを意識した塗装を施してみます。
 こうした参考になる資料があると、仕上がりがイメージしやすいですね。『U.C.HARDGRAPH』は戦場の雰囲気なども大いに参考になるので、ミリタリー系の写真集なども参考にしてみるといいかも。

 最初は、基本色のダークグリーンにつや消し黒とダークアースなどの茶色を混ぜた塗料を作り(ここではこのカラーを“ベース色”と言います)、それを陰になる部分やエッジに当たる部分、されには本体下部の砂汚れが付く箇所、フード部分の凹みや雨だれのような跡なども意識し吹いていきます。このベース色の塗装の上に、ダークグリーンの基本色を吹いていくので、この段階ではあまり神経質にならなくても大丈夫。
 ベース色の塗装が終わると、このようにエッジや陰、汚れている箇所が強調されたようになります。

 ベース色による陰部分の塗装が終わったら、次は基本色を塗っていきます。基本色を塗る際に注意したいのは、ベース色を完全に消してしまわないこと。とは言っても、ベース色を残しすぎるのも厳禁。薄く吹き重ねて、ベース色がわずかに透けて見えるように注意しながら塗っていきます。ベース色を塗りすぎたと思う箇所は、この段階で基本色を多めに吹いて消すという調整が可能です。
 これで、うっすらと陰や汚れが残った雰囲気に仕上がってリアル感が増しているのが判るでしょう。

 

 次は、基本色ではない細部の塗装を筆塗りで行い、さらにデカールを貼ります。

木内「デカールは最後に貼るんじゃないですか?デカールの上から塗料を吹いたら隠れちゃうし」

 綺麗な完成品にするならそれでもOKですが、使い込まれた雰囲気を出したいので早めにデカール貼りを行います。汚し塗装をする場合は、仕上げにデカールを貼ってしまうと、そこだけ浮いた雰囲気になってしまうので、この段階で貼ってしまい、デカール自体にも汚しを加えていきます。ちなみに、デカールはつや消し面に貼るとそこだけ光ってしまうシルバリングという現象がおこるので、デカールを貼る場所の下にクリアを塗装。そこにデカールを貼るといいでしょう。ツヤの差は、最後につや消しスプレーで全体のツヤを整えるので大丈夫です。

木内「なるほど。デカールを目立たないようにするには、具体的にどうするんですか?」

 デカールを貼り、細部の塗装が終わったら次はウォッシング。ウォッシングは、薄めた塗料で基本塗装を覆うことで全体の色調を整える作業のこと。ウォッシングには、油絵の具と油絵の具用の薄め液・ペトロールを使用しました。エナメル塗料を使ってのウォッシングするのは一般的ですが、エナメル塗料はプラスチックを割ってしまうことがあるので、今回は油絵の具を使用しました。

 

 グレーとグリーンの油絵の具をペトロールで薄く溶いて、塗装面全体に塗っていきます。もちろん、デカールの上にもウォッシングすることで、塗装と馴染んだ雰囲気を目指します。全体への塗布が終わったら、ペトロールを付けた綿棒で塗料をふき取っていきましょう。ふき取る際には、雨水が流れ落ちる方向を意識して上から下へ塗料を拭っていくと使い古された雰囲気がアップします。

 

木内「あれ、石井さん、なんか部品が落ちてますよ」
石井「え? もしかして、やっちまった?」

 プラが溶剤で割れることがあるので、注意していたのですが、バックミラーの基部とインテーク部分が割れてしまいました。接着面が小さいバックミラーのような部品は、ウォッシング作業などの際に溶剤の影響で取れてしまうことが多々あります。今回は、エナメル系の溶剤よりも浸食が少ない油絵の具を使ったのですが、それでも万全ではありませんでした。
(ちなみに、ワッパのバックミラーはすごく取れやすいので、全国のワッパ制作モデラーたちを泣かせているのは言うまでもありません……)
 ちなみに、瞬間接着剤で接着し、塗装をし直してリカバリーしておきました。

 ということで、まだ完成ではありませんが、今回の作業はここまで。この後、さらなる汚し塗装を加えて行きます。
 
 ここで、木内の作ったサウロペルタを見ていきましょう。
石井「作業開始当初から気になっていたんだけど、なんでジオラマ制作開始前に、サウロペルタが完成していたの?」
木内「いや〜、キットを手に入れたら我慢できなくて、勢いで作っちゃったんですよ。で、塗装して完成させたら、逆にこれを飾るジオラマが欲しいなと思ったんですけど……。やっぱり、作りたいジオラマに合わせてキットを選んだ方がいいんですかね?」

石井「いや、完成品がジオラマ制作のモチベーションになってもいいんじゃないかな。むしろ、単体のメカを完成させて、それを飾るジオラマ制作って言う流れが正しいような気がする。ということは、サウロペルタを見ていてシチュエーションが思い浮かんだということ?」
木内「そうです。小さいジープに荷物を満載しての移動中に一休み……みたいな雰囲気がモヤモヤと頭に浮かんだ感じですかね」
石井「で、塗装や汚しはどうやったの?」
木内「塗装は、ラッカー塗料で普通のガンプラを作るようにちょっと濃い色のベースカラーを塗って、その上に基本塗装をしています。石井さんの方法とあんまり変わらないですね。その後、ガンダムマーカーのウェザリング用やタミヤのウェザリングマスターで砂汚れみたいなものを施してみました」
石井「退色したような雰囲気もでていて、いい感じに仕上がってるな〜って思ってたんだけど。次回は、ジオラマに合わせて汚しを加えてフィニッシュと行きますか」
木内「勢いで先走ったのを突っ込まれるかと思ったら、褒められた(笑)。にしても、今回は久々に模型講座っぽい感じでしたね」
石井「ジオラマ作りは地味な作業が多いからね〜。メカが出てこないと、本当にジオラマを作っているのか、ガーデニングしているのか判らなくなるし(笑)。というわけで、次回はいよいよこのジオラマ制作も大詰め」
木内「そろそろ、新しいものを作りたくなってきたので、頑張っておわらせましょう!」

ということで次回は、今回塗装したメカにジオラマにマッチングしたさらなる汚し処理を加えつつ、小物の配置などをしてジオラマの完成を目指します。
 果たして、無事完成するのか? 乞うご期待!

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