ハードグラファーへの道 第11回

 石井と木内による、本格ジオラマ制作編第2回となる今回は、第9回までに完成させたミニジオラマとはひと味違う、ジオラマベースの制作とそれを彩る配置物にスポットを当てていきましょう。
 前回の作業で、ジオラマのだいたいのイメージを固めましたが実際に作り始めてみることで、表現していきたいものがより具体的になっていきます。そうした、細部の作り込みも含めた精度を上げる作業もまた、ジオラマ制作をする上での楽しみ。
 今回は、実際に手を動かすことで、イメージを具体化していくのが、目的です。

 

 さて、前回までのフィギュアのみの展示を目的としたベースは、タテ×ヨコがそれぞれ10センチ程度だったのに対し、今回のジオラマベースのサイズはその倍に近い大きさ。当然ながら地面に使用する素材の分量なども多くなるので、前回使用したエポキシパテとは違う素材をチョイスして、地面を表現するところから入りましょう。

まずは、木内の制作したベースを見ていきます。
 すでに大まかな地面の制作作業を終えている木内は、ベース製作には安上がりで凹凸をつけやすい紙粘土を使用。そこに、モデリングペーストをちょっと荒く塗りつけて、地面に表情を付けています。さらに、表面には鉄道模型用のリアルサンドを振りかけて、砂地を思わせるような質感を目指しているようです。

「なんとなく、いい感じになんですが、何か足りないと言うか……。雰囲気的にただ地面に完成品を置いているみたいになっているのも、ちょっと気になるんですがどうしたらいいですか?」(木内)

 ということで、まず、ジオラマ自体にドラマ的な要素を加えるために、タミヤから発売されている『U.C.HARDGRAPH』と同じ1/35スケールのMMシリーズ『道標セット』を用意。そこから道路の分岐を示す背の低い道標を選んで置くようにアドバイスしました。
「これですよコレ!こういうのが欲しかったんです。道路で進路を決めている情景っぽくなった感じがプンプンしてきた。また一歩前進っス!」(木内)

 一方、石井のジオラマでは木が必要となりますので、まず“木”の制作を行います。
今回はこの木の制作方法を詳しく説明していきます。
地中に根を張っている木は、よりリアルに見せるために地面と一体に表現しなければならないので、地面の制作の前に完成させておいて、素材を盛りつける際に配置します。では、まず木の制作方法から紹介していきます。

 今回の木の素材に使用したのは、本物の植物の根、ドライフラワー、そして葉を表現するための乾燥パセリ。どれも、自然物が素材となっています。
 木の幹や太い枝を手軽に表現するには、木の根が最適です。今回は、公園の整備のために植え込みから撤去された植物の根を、公園に遊びに来ている奥様方の目を気にしながら拾ってきました。
これをよく洗って、虫が出てこないように熱湯で一度煮沸させ、よく乾かして使用します。

 下準備が終わりました。次に、適当な長さで枝を切り分け、幹となる部分に枝になりそうな部分を“接ぎ木”して、枝振りを調整していきます。接ぎ木は、瞬間接着剤で接着すると楽です。形状的に付きにくいので、硬化促進スプレーを併用すると作業が楽です。
 枝振りの調整を済ませたところで、より自然な木に見えるようにする作業に入ります。
接ぎ木をした箇所が不自然に見えるので、モデリングペーストを塗りつけて自然に見えるように馴染ませていきます。
 続いて、より細かい枝を追加します。この枝にはドライフラワーを使うのがオススメ。今回は模型用に売られている「オランダドライフラワー」を使用。
ドライフラワーの枝先を切り離して、地道にさきほど制作した枝の先に瞬間接着剤で取り付けていきます。枯れ枝なら枝もまばらでいいですが、今回は初夏をイメージして葉も加えるつもりなので、密集した雰囲気になるよう枝を足しています。このように季節や状況を想像した上で作業するとより雰囲気を演出する事ができますね。


 これで、木の基本部分は完成。この段階で、木の幹は塗装してしまいます。塗装は、タミヤアクリルフラットアース、フラットブラック、フラットブラウンを混ぜた色をエアブラシで吹き付けました。

 

 次は、葉の表現に入ります。葉は乾燥パセリを使用しますが、木への定着にはつや消しスプレーを使っています(スプレーのりでも可)。枝先だけにスプレーして、乾燥パセリをパラパラと振りかける……という作業を、これまた地道に繰り返すことで、自然な葉の表現を目指しています。参考となるのは、やはり本物の木。枝振りや葉の付き方など、普段は何気なく見ていますが、本物を観察することで、より本物らしさを表現できると思います。

 そして、仕上げとして葉に塗装を行います。グリーン系(今回はオリーブグリーンを使用)の色を、葉の部分に着色することを意識してエアブラシで吹き付け。
葉全体を塗りつぶすのではなく、明暗をつけて吹きつけると雰囲気が出ます。
 幹の部分をちょっと明るめの色でドライブラシするなど、最終調整を加えて、木が完成。これをベースに、木工用ボンド(マッドメジウムでも可)で固定します。

 

ここで、木内からベース制作に対して質問が……。
「前回のミニジオラマ制作の拡大版みたいな感じでやったら、地面の雰囲気が均一になってしまった……。もう少し、自然な感じにしたいんですけど……」とのこと。

そういう時はモデリングペーストを使用して地面に表情をつけるといいでしょう。
今回はモデリングペーストをメインに使用して、自然な地面を制作する手順を説明していきます。

 使用したのは、モデリングペーストと鉄道模型用のリアルサンド2種(粒の大きさが異なるものを用意)、そして、使用済みの粉コーヒー。粉コーヒーは、よく乾燥させておきましょう。

「石井さん……。部屋中コーヒーくさいんですけど……」(木内)

 モデリングペーストだけでは、地面の粒が均一になりがちなので、表情をつけるためにこれらの素材を混ぜていきます。ベースサイズがさらに大きかったり、高低差が激しい場合は、ホビー用粘土のミラコン、壁補修材のドフィックスなどを使用してもいいでしょう。(これらの素材の方が、量と値段的に割安です)

「コーヒーのほのかな香りといい、この見た目といい、なんかケーキ作りみたいっスね」(木内)

 よく混ぜた素材を、油彩用のパレットナイフでベースに盛りつけていきます。今回は、未舗装の道路とその脇の空き地的な場所を想定しているので、そうした地形も意識しながらパレットナイフを動かします。おおまかに盛りつけが終わったら、道路に轍を作ったり、道と空き地の間に石を配置するなど、さらなる表情をつけていきます。道路の轍部分には、同スケールのバイクやジープのタイヤで跡をつけたりすると、雰囲気がアップします。

「実際に、素材をパレットナイフで盛りつける姿も、なんかパティシエチックなんですけど。でも、こうして見ると、前回のジオラマに比べると豪快な作業も多いですね」(木内)

 さらに、今回は木の根本には、木を作るときのあまりを使って、地面に出た根の部分を表現したり、ワッパを配置する場所にはホバーの風圧で土がちょっとえぐれたテクスチャーを筆や使い古しのハブラシで加えるなど、地面の表情が単調にならないようなさらなる工夫をこらしてみました。

 これで、地面がほぼ完成。バイクやテーブル、ワッパなどを置く場所を、ベース素材が固まる前に、実際に配置して決めておきます。

 ジオラマイメージを固めた際の仮配置に比べて、地面や木が加わったことでより完成形のイメージが見えてきました。
今回の作業はここまで。

 次回は地面にさらなるテクスチャーの追加、そして塗装を行うことでより完成度を高めていきます

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