ハードグラファーへの道 第1回

文:石井誠

「『U.C.HARDGRAPH』って作るのが難しそうだよね」
 そんなよく聞くひと言から、この企画はスタートした。
 接着剤を使わずに組み立てられ、色を塗らなくても劇中設定に遜色のないレベルで完成させられる現在のガンプラに慣れたファンにしてみると、『U.C.HARDGRAPH』は確かに敷居が高いかもしれません。
 パーツの一部は接着剤を使わなければならないし、多色成型を使っているとは言ってもフィギュアの一部は塗装しなければ見栄えも悪いまま。もちろん、このホームページや模型誌で紹介されている作例を制作しているモデラーの方々にかかれば、それは素晴らしい完成品となりますが、一朝一夕でそんなレベルになれるわけもないし……。
 そういう意味では、気軽に手を出せないでいるガンプラファンも多いのではないでしょうか? じゃあ、プラモデルとして『U.C.HARDGRAPH』はつまらないものなの? と聞かれれば、それの答えはNO! 自分で様々に工夫して仕上げていく、という模型本来の面白さが、このシリーズには込められています。だからこそ、実際に手を動かしてみれば、他のガンプラとは違った楽しさが見えてくるはず……なんてことを打ち合わせの際に話していると、とんでもない提案が出てきました。

「じゃあ、作ってみてよ!」
 プロのモデラーではない、ガンプラファンが『U.C.HARDGRAPH』を作ってみたらどうなるのか? 模型の作例クラスではなく、一般ユーザーが楽しむレベルで『U.C.HARDGRAPH』を作れないのか? 関係者のそんな気軽なひと言は、気が付けば決定の方向へ……。
 そして、サンライズWEB担当の木内とライターの石井は、そんなオーダーのもとに、3月3日に静岡で開催される「第5回モデラーズフリマ」のバンダイブースに作品を持参しジオラマ撮影に挑戦すべく『U.C.HARDGRAPH』のキットを制作してみることになるのでありました。
 時間をかけずに、キットの良さを活かしつつ、『U.C.HARDGRAPH』を楽しむ。そうした制約の中で、どれだけのことができるのか……というのが、今回の企画の主旨。とにかく、手を動かしてみることが大事というわけです。
「じゃあ、何からやってみる?」
 時間をたくさんかければ、必ず良い作品が生まれるとは限らないが、時間をかけずとも楽しめる要素がこのキットにはある。そこで、今回は「半日でどこまで作れるのか?」にチャレンジしてみることにしました。

 制限時間は5時間。『U.C.HARDGRAPH』のメインであるフィギュアを中心に、モデリングを開始。
 では、作り始めましょう……とは言いつつも、『U.C.HARDGRAPH』はフィギュア1体を作るのにニッパーだけというわけにはいかない。それなりの工具を用意しなければなりません。
 ニッパー、デザインナイフ、接着剤は必須。さらに今回は、一部塗装も行うので筆や塗料、うすめ液なども用意。今回は、二人でいかに手軽に、でも効果的な形でフィギュアを作れるかをポイントに、時間制限内に可能な限り作ろうということで進めて行きます。

ちなみに、『U.C.HARDGRAPH』のフィギュアは多色成型によって、コスチューム、頭部や腕などの肌が露出している部分、ブーツ、装備という形でパーツごとにおおまかに色分けがされています。今回は、この成形色を活かしつつ、塗装行いながらフィギュアを制作することにしてみました。

では、実際の手順を簡単に説明していきましょう。

 フィギュアはディテールが命なので、ニッパーで丁寧に切り出します。一気にランナーからパーツを切り離すと余計な部分まで傷つけてしまう可能性もあるので、一度ランナーを多めに残してパーツを切りだし、その後余分の部分を丁寧に切断するといいだでしょう。

 次の作業は、パーティングラインの処理。写真のように金型の合わせ目が残ってしまうのは、プラモデルの宿命(赤く色のついている部分が製造時にできてしまうパーティングラインです。これを削って、自然に仕上げます)。これをキレイに処理すると、仕上がりが格段にアップします。方法はいたって簡単。デザインナイフの刃を立てて、パーティングラインをカンナがけの要領で削っていき、段差を無くせばいいだけ。確かに手間はかかりますが、パーツ同士をきちんと接着するためにも必ずやっておきたい作業なので、手を抜かずに処理をしましょう。

 パーツの処理が終わったら、塗装作業に入ります。
塗料は、バラバラのパーツの状態でベルトや髪の毛、シャツや装備などを塗り分けていきます。部分的な塗装なので大雑把に作業をしても大丈夫。成形色を活かしているので、多少はみ出しても塗料を薄め液で落とすこともできるので安心。組み立て説明書の完成写真を参考に、必要な箇所だけ塗っていきましょう。

 また、頭部や腕などの小さいパーツを塗るときは、ランナーに少量の瞬間接着剤を付けて接着面に付けて持ち手を作ると作業をしやすいので、オススメ。
 さて、実際に塗った物と見比べてみると、少し手をいれただけでイメージが全然違うのがわかるはず。一見パーツが細かくて難しそうだけど、凸部に塗料を載せていく感じなので、慣れれば思うほど難しくないし、失敗のリカバーもしやすいのでぜひ試してみてほしい。

 ここまで黙々と作業していた二人だが、色を塗った段階でテンションがアップ!
「ここ塗ったら、かなりいい感じに見えてきたけどどうかな?」
「細かい部分に手を入れると、見栄えが変わるよね」
と、手応えを実感。
 わずかな塗装を行うだけで、単に組み立てただけでは得られない充実感につながるのでした。これは、実際に手を動かしてみなければ判らないことだし、自分だけの完成品を手に入れるために必要な第1歩でもあります。そしてこうなると、その後の作業がどんどん楽しくなっていくのでした。

 次は、パーツ同士の接着。塗料が乾いたら、バラバラのパーツを接着。接着剤が塗装面に付かないように、慎重に作業をしましょう。ピンセットなどを使うと失敗は少なくなるので、用意しておくと便利。そして組み上がれば、手を入れていないフィギュアとの違いは一目瞭然。塗り忘れなどの部分をリタッチしてよりフィギュアの質感を強調する最後の行程へ入ります。

 その作業とは、ウォッシング。薄めた塗料をディテールに流し込み、さらにプラスチックの色味を剥き出しの本体にも微妙な風合いを加える技法です。肌色部分には茶色系、作業着や制服にはグレー系のかなり薄めた塗料を塗り、それを綿棒などでふき取っていくとディテールが強調されていきます。凹部には微妙に塗料が残って影になり、他の部分にも微妙に塗料が残ることでプラスチック特有の平面的な印象が解消されてリアル感がアップ。
 この作業で、一気に雰囲気が変わったことを実感できるはず。若干のムラや塗料と素材の違いによるツヤに差がみられますが、それはつや消しスプレーでツヤを整ええれば気にならなくなるので、仕上げにスプレーをしておきましょう。

 こうして二人で作業を行い、5時間でフィギュア各2体を完成! 想像以上にいい仕上がりになったのではないでしょうか?

最初は敷居が高そうに感じていたことですが、実際に手を動かしてみると、手軽な作業で最大限の効果が発揮されたのが判ったはず。
今回は、最も手のかからない作業で完成を目指したが、もちろん、これにドライブラシなどでさらなる陰影の強調をしたり、顔やさらに細部の塗装などを行うとより完成度がアップするのですが、それらの技法はまたの機会に。

 そして最大のポイントはやはり完成させること。実際に、出来上がってみるとフィギュアに対する愛着も全然変わってくる。少しでも気になったのなら、フィギュアを1体無駄にするつもりでチャレンジしてみてほしい。

 

……さて、こうしてフィギュア4体はなんとか完成したものの、モデラーズフリマでの展示にはちょっと物足りない状態なのも事実。
 ということで、ホバートラックと完成しなかったフィギュアは当日までの二人への宿題に決定! 果たして、モデラーズフリマまでに間に合うのか? どんな完成品になるのか? 3月3日のモデラーズフリマの会場で明らかに! 
 そして、モデラーズフリマでの様子も次回更新で紹介する予定。お楽しみにに!

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