ハードグラファーへの道 番外編

文:石井誠

 いつもはプラモ制作の過程をお届けしているこのコーナー。今回は趣向を変えて、番外編として特別インタビューを掲載。ガンプラを塗装するのに欠かせない“塗料”にスポットを当てて、ガンダムカラーをはじめとするプラモデル用塗料の開発、発売を行うGSIクレオスを直撃! バンダイホビー事業部の長谷川淳氏とGSIクレオスの鈴木恵太氏にガンダムカラーを中心としたガンプラと塗料について話を伺いました。
 ガンダムカラーはどのように色が決められるか? どのような行程で塗料が完成するのか? 知らざれぬガンダムカラー開発の裏側をチェック。そして、我らが『U.C.HARDGRAPH』シリーズを盛り上げるべく塗料に関するお願いも敢行。

バンダイホビー事業部 長谷川淳
バンダイホビー事業部でガンプラ関連のプロモーションを担当。ガンダムカラー企画にあたっての、バンダイホビー事業部側の窓口的存在。雑誌媒体やイベントでは、“長谷川指導員”として活躍していた。

GSIクレオス ホビー部 鈴木恵太
GSIクレオス側のガンダムカラーの担当。問屋向けの営業の統括を行う傍ら、長谷川氏と共にガンダムカラーやガンダムマーカーにどの色を入れるかなどの選定を担当。

――ガンダムカラーといえば3本セットが基準になっていますが、そもそもなぜ3本セットなんですか? そして、選ばれる3本はどのように決定するんでか?

長谷川:今のガンダムカラーは、HGUCシリーズがスタートするのに合わせてリリースが始まったんですが、その原点とも言えるガンダムカラーがもともと3本だったと。

鈴木:もともとは、最初のガンプラブームの頃に小さなサイズのビンに入ったガンダムカラーをリリースしていたのですが、その頃にセットにする色数は3本に決まりました。セットとして色数を多くしてしまうと値段が高くなってしまうので3色に定着した形ですね。

長谷川:塗料はプラモデルに対して買いやすい値段であるべきですから。でも、本当に全部の色を塗ろうとすると、それこそ塗料を揃えるだけで本体のプラモデルよりも高くなってしまうんですよね。5〜6色くらいになると、買いづらいというのもあって、3色くらいがちょうどいいということで、昔からの流れがそのまま引き継がれている感じです。

鈴木:色を選ぶ基準は、混ぜて作る際に自分ではなかなか出せない色と塗る面積が多い色が中心ですね。

長谷川:代表的な3色という形ですね。僕もガンプラは色を塗って作るので、自分で「この色があったら便利だよね」という考えも入っています。もちろん、選ぶ色の基準は機体によって違っていて、例えば塗る面積が多くても単品で購入しやすい色は外して、逆に面積は少なくてもポイントとなる色を選んだりすることもあります。ケースバイケースですね。

——色味の設定は、成形色に忠実にしようとしているんですか?

長谷川:だいたい成形色にあわせています。静岡のホビーセンターの方で、設定に近い成形色を決めているので、そこからあまり外れた色にはできないですからね。ただ、完成品としての見栄えを優先させる場合もあります。例えば、最近発売されたHGUCのヤクト・ドーガだと、パーツの成形色は黄色でも実際のイメージは金色だと思うので、成形色とは異なる特殊な金色をセットしているような感じですね。

——実際に色を作るのは、どのような行程を踏んでいるんですか?

鈴木:これは調色専門のスタッフがいまして、彼らが色を混ぜて作っています。バンダイさんから送っていただいた成形品を手渡すと、それを見ながら作るらしいのですが、ほぼ1回で成形色に近い色を作ってきますね。もう、職人芸みたいなものですよ。製品化されていない、ミスターカラーの元になるような原色が20色程度ありまして、それを組み合わせて色を作っていきます。組み合わせに関しては、まさに感覚でやっているみたいで。混ぜながらレシピを作って、最終的に微調整することで色が出来上がります。

長谷川:僕もその行程は知りませんでした。

鈴木:それで、出来上がった色を見本用の板に塗装して完成となります

ガンダムカラーの色見本。白色のプラ板に調色した塗料を塗ったもの。
これを見本に、調色レシピを合わせて塗料を混ぜ合わせる。

——ところで、ガンダムカラーは現在どのくらい種類が出ているんですか?

長谷川:そうとうな数になっていますね。グレー40とかになっていますから。

鈴木:全部の色を合わせると、そろそろミスターカラーの色数を超えるところまできていますね。

——ちなみに、ガンダムカラーと言えばラッカー系の臭いがキツイ、有機溶剤系の塗料ですが、あの臭いは消すことはできないんですか?

鈴木:臭い自体を消すことはできるんですが、有機溶剤に含まれる有害な成分は消えないので、臭いがしないほうがかえって危ないんですよ。塗料のフタを閉め忘れても気付かないし、もしそのまま寝てしまったりすると身体には有害ですからね。だから、あえて臭いは消していないという感じです。

——とは言いつつも、やはり有機溶剤系は敬遠されていますよね?

鈴木:そうですね。そういう意味では、今後は水溶性のガンダムカラーの開発もやる必要がでてくるでしょうね。

——そういう意味では、ガンダムマーカーの需要も増えているんですか?

鈴木:そうですね。有機溶剤を使っていませんので、家庭によっては臭いがキツイ塗料を使えない方もいらっしゃるので、最近はユーザーも増えています。

長谷川:もともと、ガンプラ20周年の際に、ガンダムカラーの復刻版を出したいという話がクレオスさんからあって、そこから派生して新しいガンダムカラーも出せたらと言う話から、開発されたものです。うちの川口名人が「マーカーのように手軽に色が塗れるのが欲しい」という提案をして、クレオスさんに開発してもらったと。僕も昔は色をちゃんと塗っていましたが、忙しくなってくると「チョコチョコっと塗れたらいいな」と思い始めて。そこで、担当になってから「ペン先が細いのを出すと塗りやすいです」とか「ガンダムマーカーだけでウェザリングできるのもいいですよね」と提案して、いろんなバリエーションができました。

鈴木:筆を洗ったりといった、使い終わった後に手入れをしなくていいというところも支持されていますね。実は、ガンダムマーカーはいろいろと進化していまして、ペン先が使いやすいように改良されていたり、塗料の質も当初の水性インクからアルコール系のインクに変更されたりとバージョンアップしているんです。中に入っているインクはかなり質がいいものなので、定番となった“塗料皿にインクを出して筆を使って塗る”という使い方もできますからね。

——やはり、ターゲットとしてはビギナー向けなんですか?

長谷川:そうですね。現在はバラでも買うことができて、濃いユーザーの方も用途に応じて使ってもらってますが、もともとはビギナー向けに「セットを買って貰えれば一通り塗ることができる」というのを前提にしていますからね。

鈴木:「色塗りをはじめてみよう」と思って最初にマーカーを買ってもらうと、他に筆や薄め液もいらないので、ビギナーの入門用には最適ですね。

——ガンダムカラーとガンダムマーカーのラインナップの充実ぶりを見ると、まだまだ塗装をするユーザーの数は結構いるということですね。ところで、『U.C.HARDGRAPH』に絡んだお話しをしたいのですが……。『U.C.HARDGRAPH』のガンダムカラーは、第1弾の『ジオン公国軍 機動偵察隊セット』しか発売されていないのですが、今後の予定は?

長谷川:ええと……、すっかり忘れてました(笑)。ただ、これだけ色んな車両なんかがラインナップされているので、ジオン軍ミリタリーカラーセットとか連邦軍ミリタリーカラーセットみたいな商品はありかもしれないですね。

鈴木:そうですね。陸上自衛隊やNATO軍みたいな感じですかね。例えばジオン軍の車両なら、「ジオン軍が制定したこの3色でぬるべし」みたいな規定があれば、ミリタリーな雰囲気での幅は広がっていくかもしれないですからね。

——やはり、ある程度ミリタリーの知識がないと、『U.C.HARDGRAPH』の車両の塗装表現は難しいので、特定の商品のセットではなくても、そうした指針となる塗料は欲しい気がします。

長谷川:カラーリングの設定をサンライズさんの方で作ってもらわなければならないので、すぐに実現するのは難しそうですが……。

——いや、もうそこはぜひ実現に向けてお願いします!

鈴木:その他にもうちからは、ウェザリングパステルセットというような、汚し塗装用の塗料も出ているので、それらを使って貰えるといいかもしれないですね。うっすらとホコリがついたようなリアルな表現ができるので、『U.C.HARDGRAPH』には向いているんじゃないでしょうか。やはり、兵器は使えば汚れるものですから。

——ウェザリング用の塗料も『U.C.HARDGRAPH用セット』的に出してもらうというのもいい気がしますが……。

鈴木:ええ、検討はしてみます(笑)。

——他のガンプラ以上に『U.C.HARDGRAPH』のシリーズは色を塗るべきシリーズなので、塗料の方からもぜひ盛り上げてください。本日はありがとうございました。

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