デザイナーインタビュー/山根公利氏

 U.C.HARDGRAPHシリーズを手掛けるクリエイターから、そのデザインの裏側を語ってもらうインタビュー。その第1弾は、ホバートラックに代表される大型の車両やモビルスーツのパーツなどのデザインを担当し、先日初のデザインイラスト集も発売された山根公利氏が登場。巨大なメカにリアリティを与えるのに、どのような苦労が隠されているのか? まだ製品化されてないメカの裏話を含めて、リアルなメカデザインのこだわりに迫る!

——『U.C.HARDGRAPH』へは、どのように参加されたんですか?

山根:『MS IGLOO』の流れで、サンライズのD.I.D.スタジオで話をしているときに、今西さんと出渕さんから「1/35スケールでガンダムの模型をやりたい」というのを聞いて。最初は、半信半疑な感じで聞いていたんですよ。劇中に登場する巨大な戦車や装甲車が果たしてリアルになるのか? ということもあったし、それを欲しがるニーズがあるのというのもあって。楽しそうだけど信じられない、ある意味夢のような企画だなと思いましたね。

——でも、それは現実になったと。

山根:正式に依頼が来た時には、草Kさんのワッパが先にスタートしていたんだよね。かなり形になっていたんじゃないかな。

——ということは、ワッパがデザイン的な指針になったんですね。

山根:そうですね。「こんな感じでやるんだ」という意気込みが、草Kさんのデザインから判ったから。アレンジも面白かったし、企画としての現実性が増した感じで。

——『U.C.HARDGRAPH』では、大物メカのデザインを担当されている印象が強いですが、依頼もそのあたりから始まっているんですか?

山根:『第08MS小隊』のメカでやりたいという話が、最初にあって。僕としては、『第08MS小隊』のメカはあまり嘘っぽいものを描いているつもりはなかったので、大変かもしれないけど、アレンジは比較的たやすいかなと思っていたんだよね。

——リアルな方向へのデザイン的な足し算で何とかなるだろうと?

山根:ディテールを増やしていけばいいという考えがあったからね。それよりも、実作業を始めて難しかったのは、サイズをどうするか。ガンダムの世界では、兵器としてリアリティがあるものより、マゼラアタックに代表されるサイズとして大きい物が多いから。アニメの中での記号としては、そういう大きい兵器もモビルスーツと対比するという視点からすると、虚構世界にはちょうどいいんだけど。それをリアルなスケールのフィギュアと並べたときに、あまりにも大きいとリアリティがなくなるから。そこで、「どれくらいの大きさで何人乗れるのか?」というサイズを決めるのが最初の仕事だったんだよね。

——そこで、最初に手掛けることになったのは、どのアイテムなんですか?

山根:ホバートラックとまだ製品化されていないジオン軍の装甲車が、連邦軍とジオン軍のメインアイテムとして出すという話が当時はあって。最初に手掛けたのは、ジオン軍の装甲車だったんだよね。この装甲車には、兵員室があって8人の歩兵が乗るということで、デザインを決める前に、バンダイから大まかな図面が送られてきて、「8人を載せるとこんな感じ」という案があったんだけど、これがすごく余裕のある作りだった。だから、車体もすごく大きくなっていて。「実際の装甲車の中は、もっと狭いから押し詰められている感じになってもいい」とアドバイスして、兵員室を変えることから始まってどんどん大きさを詰めていったんです。宇宙世紀の車両は、ホイールインモーターになっているから動力室の心配はないけど、車輪やサスペンションのスペースを考えると、そんなに広い車内にはならないだろうと。とにかく、フィギュアとの対比を念頭に置いて配置していった感じですね。ディテールに関しても、さすがに1/35スケールだと何に使う物かはっきりしなくちゃいけないから、適当な四角いモールドも入れるようなことはできないし、付けるならある程度理由も説明しなくちゃいけない。だから、無駄なディテールも入れないようにする……そんな感じで、いきなり表現の壁にぶつかっていましたね。

——ということは、ホバートラックもデザインをし直すにあたって苦労されたんですね。

山根:自分としてはホバートラックを始め、『第08MS小隊』でデザインし直した車両は、結構リアルだと思っていたんだけど、実車のようなディテールを入れれば入れるほど、そのプロポーションが説得力を持たないことに気付いてしまったんだよね。基本的にシルエットをリアルにしないと、ディテールに説得力が生まれないと。そういう意味では、ホバートラックは形をあまり変えるつもりはなかったからこそ、意外と難しかったんですよね。

——具体的にはどのあたりで悩まれたんですか?

山根:アニメのメカデザインは、判りやすい形で格好良さを表現しているから、ある程度の機能性を殺している部分があって。ホバートラックには、バックミラーが運転席の脇に付いているけど、実際にここに付いていても機能していないんだよね。アニメでは雰囲気があっていいけど、実際にミラーを付けて機能性まで考えてデザインすると、こういう形にはならないだろうと。そうした矛盾点が見えてきて。ホバートラックを支える重心の部分も、本来ならもっと中央にホバーユニットがないとバランスが悪いし、持ち上がりにくい。だからといって、軸を真ん中に持っていくとホバーユニットが車体の下に入って格好が悪いというか、形がまとまらなくなる」

——そうなると、ホバートラックとしてのキャラクター性が消えてしまいますからね。

山根:そうなんだよね。だからすごく矛盾していて。ある程度開き直らないと、やれないということが判って。ディテールに関しても、まだバンダイの設計の現場もどう表現していいのか判っていなくて、蝶番、ボルト、取っ手なんかもどういう形をしているのか煮詰めていかないといけなかった」

——確かに、1/35スケールの模型として作ると、そうした細部が逆に見せ場になるので、甘さが目立ちますからね。

山根:だから、ホバートラックは試作でのやりとりが多くて。そういう意味では、デザインやディテールをどのようにしていくかを構築した、テスト的な要素が多かったですね。

——そういう意味では、今までのメカデザインの仕方をいろいろと考えさせられる仕事になったということですか?

山根:普段から、リアルにこしたことはないと思っているんだけど、やっぱりアニメメカはキャラクターなので、本当に考えすぎるとつまらないものになってしまうんですよ。立体物としては面白いかもしれないけど、アニメの作業は動画さんが描くので、シンプルで格好良くなければいけないし、パッと見てキャラクター性が伝わらなくちゃいけない。そういう部分とリアルさは相反する部分がありますし、ガンダムそのものがそういう兵器ですからね。だから、かなり矛盾した企画ではあるんですよ。モビルスーツの存在自体がリアルじゃないから。それが、こういう辺メカになると余計に感じる。そこのリアルと虚構のバランスが難しいなと。

——なるほど。そういう意味では、ジオン軍のジープであるサウロペルタあたりは、そうした経験をいかしたオリジナルのメカになっているんですね。

山根:“米軍のウィリスMB(小型のジープ)くらいの小さい車両”を要求されたんですよ。本当に4人しか乗れないようなサイズで。サイズが小さければ、当然ながら機能が単純化されていって、本当に無駄がなくなってくる。そうなると、本当に普通のジープにしかならないというところまでおいつめられました(笑)。

——宇宙世紀の車である必要がなくなってしまうと。

山根:パワーユニットを付けて、未来の車両に見せようというアイデアをいただいて。それをバックパックのように付けて未来感を出しつつ、細部にジオンっぽいちょっと悪役的なデザインラインを入れていったんです。アイデアのひとつで、クラッシックカーのようにボンネットとフェンダーを独立させて、タイヤとフェンダーが一緒にステアリングするというようなキャラクター性の強いデザインを提案したんですが却下されて。結果、細部ディテールで攻めるしかなくて、これはこれで苦労しましたね。

——そうなると、モビルスーツのパーツのデザインもやはりかなり悩まれたわけですね?

山根:ザクの頭に関しては、フォルムは基本的にいじれないから。今西さんから「ヘルメット式に脱がせたい」というオーダー以外は、特に細かい要求とかもなくて。自分としては、細部に分割線を入れてどういう風に作られているのかが判るラインを入れていくしかないなと思って。「これが山根版ザク」みたいなものを描くのではなくて、やっぱりこれは大勢の人が思っているザクのイメージに近づけるのが一番ということもあるので。平均的なザクのイメージをベースにしつつ、どう装甲を分割しつつ、継ぎ目に段差をつけるとかして、たくさんのパーツが組み合わされて作られている雰囲気を出すのをすごく考えましたね。クラッシュモデルにするとも言われていたので、分割線をいれておくと壊れた表現をしやすくするという狙いもあって。物が壊れる時って、爆発してひしゃげて穴が空いたりするけど、本来は弱いところが割れたり、取れたりするパターンがほとんどだから、モデラーさんがそういう表現をしやすいようにはしていますね。モビルスーツの頭の中には、何が入っているかは相当悩みましたね(笑)」

——やはり、表現の方法はモビルスーツ=戦車的なイメージでやられているんですか?

山根:既存の兵器のラインというか、現在ではなく第二次世界大戦くらいの雰囲気というのがデザインの根底にはあるよね。そういう、ちょっと未来だけどアナクロなイメージ。あとは、環境に応じたディテールが必要なんじゃないかと考えました。例えば地上だったらバイザーの前に雨水が垂れてきたら見えにくいので雨樋があるとか。実際にはそんなことはないだろうけど、付いているとなんとなく雰囲気があるかなって。そういう小技の積み重ねですよね。

——陸戦ガンダムの腕もやはり悩みどころは多いと?

山根:ガンダムの腕は、動くように作られているデザインじゃないですよね。人間の腕のように動くデザインで作られているわけじゃないけど、全てを求められちゃう。だったら、外観を変えさせてよって(笑)。でも、外観を変えたらアシモの腕みたいになったりしちゃうし。そのあたりがとても難しくて。小さな模型だと手首が球体関節で済まされるというのがあるんだけど、実際に物を作ると球体関節ってどういう動力で動いているのかわからないから。だから、説得力を持たせるとなると、たくさんの関節を持ったアクチュエーターの複合体みたいになるんだろうけど、こういうデザインだと特に手首が難しい。手首のスリーブや、手甲の細部が人と同じ動きをさせると干渉してしまう。

——ネガティブな部分にばかりぶつかってしまうわけですね。

山根:そうそう。だから、いろいろと手首の伸縮ギミックを付けたりとか、そういう部分で逃げてみたり。あと、モビルルーツは車両系と違って、プロレスするから細かいパーツは付けられないよね。特に腕の部分は難しい。手すりなんか付いていたら、すぐに壊れちゃう。だから、そういう細かい突起物を付けずに、装甲の接合部分であるとか、メンテナンスハッチの蝶番であるとか、最低限のディテールで成果をあげるようにしているんです。フックは埋め込み式になっていたり、掌を見えるカメラが付いていたり。装甲版の継ぎ目の段差の表現なんかは、それっぽく仕上がっているので気に入っていますね。わりと小さいスケールのキットはC面だけで表現しているので、あえて段差を増やすことで「こうやって作られているんだな」って説得力は出たんじゃないかな。

——でも、そうなってくると立体化されていないモビルスーツの他の部分が見たくなってくるんですが。

山根:まあ、みんな想像しているけどね(笑)。そのうち出るんじゃないかと。

——自分が他の部位もデザインするんじゃないかとか、考えたりしませんか?

山根:それは、考えたくなかった。これをひとつ、腕を描けば終わるんだと(笑)。終わらないんですけどね。まあ、実際には大変ですよ。車だったらまるまる1台分自分でデザインするわけですから。本物の車は各部をいろんなデザイナーが多岐にわたって分業してまとめるのを、一人でやっているわけだからね。

——もうひとつ、今回発売される山根さんの画集には、次に発売となる61式戦車のデザインも掲載されていますが、ファン待望の戦車ですがやはりこれも苦労されたんですか?

山根:『U.C.HARDGRAPH』の企画自体があまり信じられなかったんだけど、61式を出すというのがさらにまた信じられなくて(笑)。やっぱり、サイズ的にね。相当大きいし、いくらガンプラとは言っても、未来のそれも大きな戦車のプラモデルが売れるのかっていう。だから、大きさ的にはちょっと遠慮気味に書いたけど、61式戦車の場合は本当にデカイよね」

——『第08MS小隊』の時に、マゼラアタックと一緒に61式戦車もリデザインをされていますが、やはりそれを踏まえてもUCHGで再びデザインをするとあれも“リアルじゃなかった”と気付かされたわけですね?

山根「当然そうですね。砲身が2本あるという時点でかなり厳しい(笑)。そもそも、この砲塔の中に2本の砲尾が入るのかって。外側に生えているならいいけど、砲は後座するし、弾を装填したりしなければならないので。どう考えても、この砲塔だと2門はキツイんだけど。全体の大きさをリアルに考えて、設定とほぼ同じサイズの、実際に本物の戦車の150ミリ砲をもとに全体の大きさをおこしていったんですよ。砲尾は最低これくらい、だから砲塔はこれくらい、そうなると砲塔のリングがこれくらいと。本当はもっと大きくなければならないんだけど、これ以上大きくするとキャラクターが変わってくるので、ギリギリのラインで作って。だから、これも本物の考え方と同じですよね。全部バランスを考えて、そこから逆算して。最初は余裕を持って少し大きめに描いたんだけど、バンダイさんもこの大きさじゃ出せないと言うことになって。ギリギリのところまでは削っていったので、かなりコンパクトにはなったんですよね。砲塔の大きさだけ言うと、レオパルドUとあまり変わらないんですよ。砲塔が一人乗りということもあって、だいぶ小さくなりました」

——未来の戦車と言うこともあって、最近の現用戦車の発展系の意匠とか入れられているんですよね?

山根:やっぱり、そうなりますよね。運用を考えたら、自然とリアルになりますよね。登るときにここに取っ手が必要だとか、ここに工具が入っているからここにハッチがあるとか、ハッチがあれば取っ手もあって、蝶番もあるだろうなって。普通に考えて書いていけば、自然とリアルになりますよね。ただ、いくらこうやって描いていっても、本物の持っているディテールの量にはやっぱりかなわないんですよ。実際に本当にリアルな模型をつくるとなると、デザイナーが一人や二人じゃ足りないと言う話になってきちゃう。

——工業デザインとして成立させるには、それなりに描く部分が多いですからね。それこそ、砲塔を造っているメーカーとエンジンを作っているメーカーと、履帯を作っているメーカーは違いますから。

山根:それこそ、機銃1つとっても凄いディテールなのに。それも、長年の技術で、本物を作る人が研究して作られて、それが積み重ねられて改良されて。それも、いろんなプロダクトの人が集まってやっているわけで。単純に、それを雰囲気だけまねるのは難しいんですよね。アニメのデザインはそういうのをシンプルにして格好良く見せているから、作画の上だと描けるけど、本物の模型と勝負しようとしたときに、やっぱりまったく敵わないなと。とてもあのディテールの密度まで持っていけない。それこそ、ひとつひとつのディテールを解析していって、それこそここの厚みが0.0何ミリでっていう指示までしていかないと、リアルにならないですよね。だから、ある程度簡略化された形で、格好良く見えるという。さっきも話したけど、装甲の継ぎ目をディフォルメしてやるとか。形のディフォルメはアニメのキャラクターなのでできているので、要はリアルを思わせる部分でディフォルメしてやる。ホバートラックなんかも、継ぎ目に実際にそこにそんなに段差はないんだけど、そこをちょっとディフォルメしてあげると強調されるので、ディテールの数では敵わなくても、リアルぽいんじゃないのって思えてもらえるようになるわけ。アニメの場合はフォルムのディフォルメなんだけど、U.C.HARDGRAPHはディテールのディフォルメをしながらデザインしている感じですね。

——なるほど。それらの詳細が判るデザイン画は、発売中の山根さんのイラスト集に載っているわけですね。

山根:最近のものを中心にセレクトして、『U.C.HARDGRAPH』だけじゃなく、『第08MS小隊』や『カウボーイビバップ』、その他いろんな作品のデザイン画が収録されています。

——デザインの成立過程が判るような内容になっていますね。

山根:デザインの行程を知って欲しいというのがあって、そうした構成になっているし、読み物もゲストを迎えて面白くやっています。編集プロダクションのスタッフもメカが好きで、やりやすかったです。解説にスタッフの趣味も入っていて、面白いと思います。

——タイトルも直球で『山根公利メカ図鑑』!

山根:なんか、あんまり気取ったのが似合わないので、面白可笑しく、内容が伝わればいいかと思ってこのタイトルになりました。本当は帯に“島根のメカ職人”ってキャッチコピーを入れてほしいと頼んだんです。そしたら、島根の土産物屋で売れるから。でも、それは却下されちゃいました(笑)。

——岩見銀山あたりの、世界遺産の土産物店にもぜひ置いて欲しいですよね(笑)。

山根:ガンダムファン以外の方にもぜひ手にとって貰えればと思います。

——ありがとうございました。

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