設定解説:ジオン公国軍機動偵察セット

部隊解説
 新兵器モビルスーツの投入により宇宙での緒戦に勝利を収めたジオン公国であったが、当初の構想であった地球連邦政府との短期講和には至らなかった。そのため次の段階として突撃機動軍を中心に新たに地球制圧軍を編制、宇宙世紀0079年3月地球侵攻を開始した。モビルスーツは地上戦でも連邦軍を圧倒。ジオン公国軍は北アメリカ、ウクライナ、中央アフリカなどの要所を驚くべき速さで陥落させ、その占領下に置いた。
 前衛のモビルスーツが敵主力を撃破し、続く歩兵を中核とする部隊が残敵を掃討し占領するのがジオン軍の電撃作戦のスタイルであり、柔軟な編成とあいまって見事な成功を収めたのである。
 しかし急激に占領地域が広がるにつれ、それを維持すべき兵員が不足し、同年初夏には、ジオン公国軍が掌握しているのは拠点とそれらを結ぶ連絡線のみという、非常に脆弱な状況を呈した。
 これを危険視した地球制圧軍総司令部は、連邦軍を上回る機動偵察部隊を編成することで、少人数による効率的な占領地域の哨戒を行った。
 哨戒の単位となる機動偵察中隊は、ワッパを基幹装備とする4個小隊と、モビルスーツを有する1個の本部管理小隊による構成が基本であるが、地域よって部隊内容は多種多様であった。哨戒エリアは2重の環状構成を基本とし、本部管理小隊のある拠点を軸として、第1小隊による内線警戒区と、第2、第3、第4小隊による外線警戒区が設定された。各機動偵察中隊が担当する哨戒範囲は広く、通常の偵察部隊ではカバーしきれなかったが、ワッパの配備により機動力が大幅に向上した機動偵察部隊は十分にその任務を果たすことが可能だった。
彼らの主任務は敵勢力の浸透および突破の察知と警報発令であり、状況によりモビルスーツによる威力偵察や敵勢力の排除が実施された。なおモビルスーツ小隊が保有していた機体はMS―06ザクで、これは終戦まで変わることはなかった。
 極東地域に配置された第908機動偵察中隊は、ワッパによる初の対モビルスーツ戦闘を敢行した部隊として有名である。同隊に所属するクワラン曹長が率いる小隊は、担当区域に接近した地球連邦軍のモビルスーツ実験部隊ホワイトベース隊(後の第13独立戦隊)に対し独自に作戦を展開、ザクを用いて敵のモビルスーツを母艦からの視界が届かない森林地帯へ誘引した後、ワッパの集団運用により吸着時限爆薬の直接取り付けを敢行した。爆発までの設定時間が長かったため最終的に作戦は失敗に終わったものの、当時無敵を謳われた地球連邦軍試作モビルスーツを、あと一歩のところまで追い詰めることに成功したことは特筆に値する。 

機体解説
▽名称
ジオン公国軍 機動浮遊機
PVN.4/3 WAPPA (ピーブイエヌ フォー スラッシュ スリー ワッパ)

▽諸元
全長:5.5m
全高:2.7m
全幅:2.1m
ファン直径:1.1m

 ワッパの名で知られるパーソナル・ホバー・バイクはジオン公国軍が開発し、一年戦争中、主に偵察や連絡任務に広く使用されていた。
 パワー・ソースは内燃機関ではなく、よりコントローラブルな電動モーターによるダイレクト駆動方式を採用。前後のファンそれぞれに接続された2基のモーター出力を個別に制御する事で、高い運動性を実現した。このワッパ専用に開発されたモーターは、サイズに比して非常に出力が高く、短時間であればかなりの高度(とはいっても高度十数メートル程度)まで上昇することが可能だった。電源はパワーパック4基が機体底部にレイアウトされている。
ワッパはその操縦のほとんどが自動化されており、未経験者でも数時間の訓練で乗りこなすことができた。
 武装はブーム懸架式機関銃にマズラMG74/Sを標準装備。また、シンプルな構造の機体は改造が容易であり、様々な装備を施したバリエーションが存在している。
 戦後、地球連邦軍は接収した機体を民間に放出。少なくない数のワッパが市場に出回り、優れた操縦性と運動性、整備の簡便さで高い評価を獲得した。やがてモータースポーツにも用いられるようになり、多くの愛好者を生んだ。こうした流れに着目した各企業は同種の機体を開発し販売を開始。瞬く間にホバー・バイク市場が形成されていった。以後“ワッパ”は決まった機種を意味するのではなく、ホバー・バイクの代名詞となったことは広く知られている。

服装解説
 ジオン公国軍は地球侵攻作戦を発動した際に必要となる装備の開発と生産を行った。それは兵器のみにとどまらず、被服などの軍装品も地球環境に適したものが研究・開発された。
ワッパの搭乗員が着用するCWU−2/G フライトスーツもそのひとつである。これは地上用ノーマルスーツと通称されることが多いが、本来、ノーマルスーツとは宇宙服を指し、地上用として生命維持装置の一切を省いたCWU−2/G フライトスーツをノーマルスーツと呼ぶのは正確ではない。しかしジオン軍兵士の多くが地上用ノーマルスーツと呼び慣わしたため現在ではこの名が定着した。
 兵士たちがこのフライトスーツをノーマルスーツと呼んだ理由には、その外観がノーマルスーツに極めて似通っていたことが挙げられる。
 元々、CWU−2/Gは、モビルスーツ搭乗員たちの多くが着用したM−73ノーマルスーツの生産ラインを極力流用することが前提でデザインされた。そのため、このように共通点を多く残す外見となった。開戦の前年、ジオン独立戦争勃発の危機が叫ばれる中、地球侵攻のために急遽開発せねばならないフライトスーツを、新規にデザインする余裕はジオン公国軍に無かったのである。
しかし、この流用デザインは意外な心理的効果を発揮した。兵士たちの精神ストレスの軽減に寄与したのだ。宇宙の軍隊たるジオン公国軍にとって、地球の環境は決して慣れ親しみ易いものではないことは戦前から指摘されており、それは訓練された将兵であっても変わることはない、と考えられていた。兵士たちは、着用し慣れたノーマルスーツに似た、このフライトスーツで身を包むことにより、地球という過酷な環境ストレスと戦うことが出来たのだ。
更に、ヘルメットに至っては、ノーマルスーツのヘルメットそのものが使用された。もちろん、それも地球の地域環境に応じて、兵士個人或いは部隊での現地改造が施された。
 なお、CWU−2/G フライトスーツのCWUとはクロージング・ウエア・ユニットの意味であり、/Gは地上用と推察される。
このフライトスーツの特徴的部分として、背中に生命維持装置を接続するためのコネクターがあるが、これはノーマルスーツの部品をそのまま転用した名残りで、通常は使用できないようにパッキングされている。
 第908機動偵察中隊、ワッパ搭乗員のクワラン軍曹たちが用いているフィンガーレスグローブは官品ではなく、現地の環境に合わせて独自に調達したローカルメイド品である。このような装備の現地調達は時に部隊規模で行われたが、一年戦争に限らず人類の戦史を通して数多く見受けられる事例である。

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